病院薬剤師pharma.ponの備忘録

とある総合病院で働く薬剤師が備忘録としていろんなことを記録していきます。

ロスバスタチンと酸化マグネシウムの併用は避けるべきなのか

 

このロスバスタチンと酸化マグネシウムの併用問題。答えはないが自分なりの考えを書いてみる。

 

日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」ではCVDの2次予防としてハイリスク患者であればLDL-Cの目標値として70mg/dL以下が推奨され、一般的にLDL-Cを厳格に低下させコントロールすることがCVDの発症リスクを低下させるとされている。

LDL-C低下のための薬剤はスタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬などが用いられるが、通常第一選択薬はスタチンである。

情報源によって細かな数字の違いはあるもののスタンダードスタチンは20-30%程度、ストロングスタチンは30-45%程度LDL-Cを低下させると記載されている。

 

ストロングスタチンの中でロスバスタチンのみ酸化マグネシウムとの同時服用により吸収が低下することがわかっており、ロスバスタチンの添付文書には下記のような記載がある。

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                                 ロスバスタチン添付文書より引用

 

添付文書に記載があるのは水酸化マグネシウム・水酸化アルミニウムであり、商品名としてはマルファ配合内服液®などになるのだろう。下記のような報告がある。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

この添付文書のみでは酸化マグネシウムとの相互作用があるかは明らかではないが、酸化マグネシウムの添付文書には下記記載があり、程度は不明だがある程度の吸収低下があるのだろうと推察される。

MRさんに聞くと「キレートか吸着だと思います。」と言われた覚えがある。

酸化マグネシウムの投与量が違えば影響が変わる可能性もあるかもしれない。

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                                酸化マグネシウム添付文書より引用

 

日経DIの記事にもロスバスタチンと酸化マグネシウムの併用に関する記事があり、吸収低下について言及されている。

ロスバスタチンとガスターとの三角関係!?:DI Online

 

また、こんな試験も進行中?らしい。

https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&recptno=R000029448&type=summary&language=J

 

また併用について高橋先生からの報告もある。

ci.nii.ac.jp

 

一般的にスタチンは「6%ルール」というものが存在しており、投与量を倍にしてもLDL-Cは6%程度しか低下しないとされている。日々のばらつきが多少あると思われるので、採血のタイミングによってはLDL-Cに差は出ないかもしれない。ただ、一応LDL-Cの採血は食後でも空腹時でも大きな差はないとされているけど。(ESC/EASガイドライン2016)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

日本人に対して、ロスバスタチンと同じストロングスタチンであるピタバスタチンで1mgと4mgの有効性を比較したREAL-CAD試験ではLDL-C値は

1mg群:91mg/dL

4mg群:76mg/dL

であり、投与量を4倍にすると16%程度LDL-Cが低下している。

この試験はOMIの既往などを持つ患者を対象としたオープンラベルRCTだが、結果は

心血管死+心筋梗塞脳梗塞+不安定狭心症
累積4年発生率
4.3% vs 5.4% HR:0.81(95%CI:0.69−0.95)

心血管死
1.4% vs 1.8% HR:0.78(95%CI:0.59−1.04)

心筋梗塞
0.6% vs 1.2% HR:0.57(95%CI:0.38−0.83)

脳梗塞
1.3% vs 1.4% HR:1.03(95%CI:0.76-1.40)

不安定狭心症
1.2% vs 1.4% HR:0.86(95%CI:0.63-1.17)

となっている。

スタチン4倍量内服によって心筋梗塞などは減少するが、絶対的なイベント減少率は大きくない。日本人はCVDリスクがかなり低いなぁーと思う。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

日本人対象のスタチンCVD1次予防のMEGAstudyの結果はそれほど大きな効果があるとは思えない。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

これらのことを考えると、ロスバスタチンと酸化マグネシウムの併用でどの程度吸収が変化するか明らかではない部分があるが、吸収が最大でも50%程度低下した際にLDL-C値は明らかにわかるほど変化しない可能性がある。

また、心血管死や心筋梗塞の発症といったアウトカムの差はそれほど大きくないと考えている。

 

 

個人的には

2次予防で再発ハイリスクと思われる患者において、服薬時間をずらしても問題なく内服できる患者のみ同時服用を避けることを推奨しているが、少しでも内服継続に問題があれば併用で問題ないと考えている。

みなさんはどのように対応されてるんでしょう?ぜひ教えていただきたいです。