病院薬剤師pharma.ponの備忘録

とある総合病院で働く薬剤師が備忘録としていろんなことを記録していきます。

【メタ解析】スタチンで糖尿病は増えますか?【院内抄読会】

【背景】

職員からこちらの論文で抄読会をやってほしいと希望がありスタチンとDM発症についてのメタ解析。 

 

【仮想症例シナリオ】

あなたは、とある病院の薬剤師さんです。

夏休みも終わり、少しずつ秋の雰囲気を感じるようになってきました。

 

ある日、外来の窓口で患者さんから質問を受けました。

 

患者さん「ちょっと聞きたいんだけど・・健診でコレステロールが高いと言われて最近アトルバスタチンって薬が始まったんだけど、ネットで調べたら副作用のところに糖尿病って書いてあったんだ。この前読んだ週刊ポ●トにも飲んではいけない薬って特集で載ってたし。

コレステロールが高いのは確かに良くないと思うんだけど、糖尿病は絶対なりたくないんだよ。糖尿病になったらおいしいもの食べられないしさぁ・・。これって飲まないとダメ?」

 

アトルバスタチンの添付文書に糖尿病の記載があることを知らなかったあなた。

次回の外来受診までに調べておくことを約束し、内服は継続するようにお願いして面談をを終了しました。

 

その日の業務終了後、スタチンと糖尿病の関連について調べてみるとちょうど良さそうな論文を見つけることが出来たのでさっそく読んでみることにしました。

 

参考文献:Statins and risk of incident diabetes: a collaborative meta-analysis of randomised statin trials

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=20167359

PMID: 20167359

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【患者背景】

54歳男性 170㎝、90㎏  既往歴:高血圧、脂質異常、痛風

生活が不規則で夜勤などもある。飲酒、喫煙もあり。

 

●服用薬

・アトルバスタチン10㎎

アムロジピン5㎎

・アロプリノール100㎎

・アジルサルタン20㎎      すべて朝1錠

 

●検査値(薬剤服用あり)

LDL 140mg/dl TG 220mg/dl  血圧135/80 UA 6.3mg/dl

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研究デザイン:メタ解析

 

 論文の内容

 

P:臓器移植、透析患者を除く成人

I:スタチン使用

C:プラセボ

O:糖尿病の発症

 

・Primary Outcomeは明確になっているか     →  明確である

・真のアウトカムかどうか              →  真のアウトカムといえる?

 

【メタ解析における4つのバイアス】

1、評価者バイアス

・that were reviewed by two independent readers (DP and PW), with a third reviewer (NS) to settle any discrepancies.

 →2人の査読者(DPおよびPW)によって独立して行われた。矛盾は3人目のNSによって解決された。

 

 2、出版バイアス

・We searched Medline, Embase, and the Cochrane Central Register of Controlled Trials, from 1994 to 2009,

・We restricted our search to reports that were published in English

・We contacted investigators from nine trials about unpublished data

・we formed a funnel plot

 →MEDLINE,EMBASE, Cochrane Central Register of Controlled Trialsから抽出。英語のみに限定。研究者に連絡を取り、未発表のデータも収集。Funnelplot使用

 

 3、元論文バイアス

 ・statins were used in the 13 trials

 →13RCTのメタ解析。

 f:id:pharmapon:20180820162905p:plain

f:id:pharmapon:20180820162917p:plain

 (本文から引用) 2010 Feb 27;375(9716):735-42.  Epub 2010 Feb 16.

 

4、異質性バイアス(I2)

→結果を参照

 

【結果】 

f:id:pharmapon:20180820162852p:plain

(本文から引用) 2010 Feb 27;375(9716):735-42.  Epub 2010 Feb 16.

 

f:id:pharmapon:20180820162930p:plain

(本文から引用) 2010 Feb 27;375(9716):735-42.  Epub 2010 Feb 16.

 f:id:pharmapon:20180820162942p:plain

(本文から引用) 2010 Feb 27;375(9716):735-42.  Epub 2010 Feb 16.

 

【まとめ・感想】

スタチンでDM発症リスクが有意に9%上昇する結果。

NNHだと255人となり、それほどDMによる発症リスクが高いとはいえないか。

症例にあげた仮想患者では生活習慣などから心血管イベント発症高リスクと考えられ、現時点ではスタチン内服が推奨されると考えるが、生活習慣を見直していくことでスタチン中止を考慮できる可能性は十分にあると思われる。

スタチン中止を目標に生活習慣改善に取り組んでいただくことが患者さんにとっても良いのではないか。

 

●以下各グループの意見(一部)

・NNH255人でDM発症リスクはそれほど高くないし、患者さんは高リスクの人だと思うのでできれば飲んでもらう方向で持っていきたい。

 

・サブ解析からプラバスタチンは他のスタチンよりもDM発症リスクが低そうにも思うので、リピトールにこだわらずプラバスタチンへの変更を考慮しても良いのでは?

 

・生活習慣の是正ができればスタチンを飲まなくてもよい可能性あるので、生活習慣の改善を進めてもらう方向で話を持っていきたい。

 

・DM発症が9%上昇と聞くとよくわからないが、255人に1人と聞くとリスクは高くないように思うので出来れば飲んでほしいが、それらを説明して生活習慣を改善してくれるならそれが良い気がする。

 

・年齢が高いほどDM発症リスクが高いように思われるので、54歳であればそれほど気にしなくても良い気がする。

 

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