【メタ解析】収縮能の保たれた心不全にはどんな薬剤が有効ですか?【JJCLIP#58】
JJCLIP#58 HFpEFの方への薬物治療についての論文を復習しました。
参考文献:Drug treatment effects on outcomes in heart failure with preserved ejection fraction: a systematic review and meta-analysis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28780577
PMID:28780577
--------------------------------------------------------------------------------------------------------
研究デザイン:メタ解析
論文の内容
P:EF40%以上の心不全患者
I:β遮断薬、ACEI、MRA等 心不全治療薬
C:プラセボ
O:全死亡
副次アウトカム:心血管死亡、心不全入院、運動能力、QOL、NT-proBNP
・Primary Outcomeは明確になっているか → 明確である
・真のアウトカムかどうか → 真のアウトカムといえる
【メタ解析における4つのバイアス】
1、評価者バイアス
・independently and in duplicate by two authors (SLZ, FTC)
・Disagreements in abstracted data were adjudicated by a third reviewer (AAN).
・No disagreements required resolution by a third reviewer.
→2名の評価者が独立してデータ抽出しており、データの不一致については第3者によって判断。おおむね問題はなさそう
2、出版バイアス
・Medline, Embase and the Cochrane Central Register of Controlled Trials hand-screened for additional trials.
・Non-English language publications were excluded.
・Egger test did not identify asymmetry for any of the funnel plots
→情報元:MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled
Trials
→英語のみであるが、ハンドサーチも行われておりファンネルプロット使用
→おおむね問題はなさそう
3、元論文バイアス
・25研究(5つの論文はバイアスリスク高いと評価されている。が他はすべて低い)
→おおむね問題はなさそう
4、異質性バイアス(I2)
→結果を参照
【結果】
Primary Outcome
①全死亡 OR=0.96 (95%CI:0.90~1.03) I2=2%
(本文より引用)Heart. 2018 Mar;104(5):407-415. doi: 10.1136/heartjnl-2017-311652. Epub 2017 Aug 5.
Secondary Outcome
②心血管死亡 OR=0.95 (95%CI:0.87~1.03) I2=0%
(本文より引用)Heart. 2018 Mar;104(5):407-415. doi: 10.1136/heartjnl-2017-311652. Epub 2017 Aug 5.
③心不全入院 OR=0.88 (95%CI:0.81~0.95) I2=0%
(本文より引用)Heart. 2018 Mar;104(5):407-415. doi: 10.1136/heartjnl-2017-311652. Epub 2017 Aug 5.
【まとめ・感想】
全死亡、心血管死亡ともに減らないという結果。心不全入院は若干減る結果。
β遮断薬が有効な可能性が示唆されるが、よい結果のAronow試験はプロプラノロールを使用しておりバイアスリスクは高いとされている文献のよう。
EF40%以上で拾ってくるとHFmrEFも若干含んでおり、40%に近い集団が薬剤治療が有効な方向に引っ張っている可能性も示唆されている。
やはり現状HFpEFに対して予後延長効果のある薬剤はない印象。
しかし実臨床においては脈拍や血圧が高ければRAAS系やβ遮断薬、胸水があればMRAや他の利尿薬なども使用されHFrEFだろうがHFpEFだろうが結果的に投薬内容は同じような内容になることが多いように感じる。
並存疾患などを合わせて考えていく必要があると思われる。
循環器疾患ガイドライン総まとめ 2018年 05 月号 [雑誌]: 月刊薬事 増刊
- 作者: 山下武志
- 出版社/メーカー: じほう
- 発売日: 2018/05/29
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログを見る
【院内抄読会】院内抄読会の進め方紹介
当院はベッド数500以上で、常勤勤務薬剤師50人以上とそこそこ大きい病院ですがアカデミックな文化があまりないです。
なので、日頃から英語の論文を読む人はあまりおらず、ガイドラインやメーカーからの情報が拠り所となることが多いです。
そんな環境のなか、なるべく論文を読んだことのない人でも気軽に参加してもらえるようJJCLIPを参考にしながら症例シナリオを用意しています。
また、なるべく幅広い分野で使用する薬にフォーカスして論文を選択しています。
以下抄読会の進め方です。
みなさまのご参考になれば幸いです。
【抄読会の1週間ほど前まで】
・症例シナリオを用意し、文献を提示する。(症例シナリオの例は他記事を参照)
・当日までに参加者にはアブストラクトに簡単に目を通してきてもらう。
【抄読会当日】・・・JJCLIPで使用している論文を読むためのワークシート使用
・簡単に背景を説明
→薬剤Aと薬剤Bの薬理学的な違いなど
→一般的にどのように使い分けられていることが多いかなど
・参加者にPICOをたててもらう(5分くらい)
・文献をプロジェクターで映してPICOの確認
・患者背景や結果を表や図で確認
・批判的吟味のためのポイントをみんなで確認
→そのつどわからない用語は説明(ITT解析、PROBE法など)
・臨床にどう活用するかディスカッション
【終了後】
・論文のPICOや確認点をまとめ、不参加の人でも振り返りができるように共有(wordファイルなどにまとめ、共有フォルダに入れておく)
【観察研究】アピキサバンは透析患者の心房細動にも有効ですか?
【背景】
日本では経口抗凝固薬は基本的にすべて禁忌に該当(ワルファリンは禁忌であるが使用している)しているが、海外では透析患者へもDOACを使用しているようである。
【文献】
Outcomes Associated with Apixaban Use in End-Stage Kidney Disease Patients with Atrial Fibrillation in the United States.
PMID:29954737
---------------------------------------------------------------------------
【論文のPICO】
P:経口抗凝固薬使用中の心房細動を有する透析患者(25523人)※
I:アピキサバン使用(2351人)
C:ワルファリン使用(23172人)
O:脳卒中・全身性塞栓症・大出血・消化管出血・頭蓋内出血・全死亡
【研究対象集団】
Medicare beneficiaries included in the United States Renal Data System (October 2010 to December 2015).
→2010.10~2015.12における米国の腎臓データシステムでのメディケア登録者を対象
Table1 Apixaban Warfarin
平均年齢 68.9歳 68.2歳
HD 2216人 21930人
PD 135人 1242人
CHA2DS2-VASc 5.27 5.24
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
調節した交絡因子は何か?マッチングされているか?
→Prognositic scoreでマッチング
【結果】
Table2
●脳卒中/全身塞栓症
Apixaban Warfarin HR
81/2351 373/7053 0.88(0.69-1.12)
●大出血
129/2351 715/7053 0.72(0.59-0.87)
●消化管出血
155/2351 710/7053 0.86(0.72-1.02)
●頭蓋内出血
21/2350 111/7050 0.79(0.49-1.26)
●全死亡
159/2351 753/7053 0.85(0.71-1.01)
Table9.10
Apixaban10mg VS Apixaban5mg
●脳卒中/全身塞栓症 0.61(0.37-0.98)
●大出血 0.98(0.68-1.42)
●消化管出血 1.17(0.84-1.63)
●頭蓋内出血 0.65(0.25-1.67)
●全死亡 0.64(0.45-0.92)
【まとめ・感想】
脳卒中/全身性塞栓症は有意差なし。大出血はアピキサバンで有意に少ない。
アピキサバン10mg/日では5mg/日およびワルファリンに比べて脳卒中/全身性塞栓症、死亡が有意に少ないという結果。
確かにアピキサバンはDOACの中では腎排泄率が最も低いですが透析患者に対してもワルファリンと比べれば安全な印象。
ただ、あくまで観察研究であることや塞栓症リスク減少分と出血リスク増大分を比べた時の利益がしっかりあるのかどうかはわからないため、積極的にアピキサバンを勧められるかどうかは不明。(そもそも国内だと透析にDOAC使えないし・・・)
今後いろんなデータが蓄積してきたら使用できるようになるのでしょうか。
その前に腎機能を気にしなくてよいDOACが発売されればよいのですが・・・。
薬剤師のための医学論文活用ガイド〜エビデンスを探して読んで行動するために必要なこと〜
- 作者: 薬剤師のジャーナルクラブ
- 出版社/メーカー: 中外医学社
- 発売日: 2016/03/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
【RCT】フェブキソスタットはアロプリノールと比べて安全ですか?【院内抄読会】【CARES】
第2回目の院内薬剤部抄読会を行いました。
【フェブキソスタットはアロプリノールと比べて安全ですか?】
参考文献:Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1710895
PMID:29527974
-----------------------------------------------------------------------------------
【仮想症例シナリオ】
あなたは、とある病院の薬剤師さんです。
梅雨も明け夏も本番となり、日に日に暑さを感じるようになってきました。
ある日、病棟で業務をしていると腎機能が低下している患者にアロプリノールが処方されているのを発見しました。
フェブキソスタットであれば腎機能が低下していてもあまり減量する必要がないことを知っていたあなた。さっそく主治医へフェブキソスタットへの変更はどうかと提案することにしました。
あなた:「先生、●●さんですが腎機能が低下しているのでアロプリノールをフェブキソスタットへ変更するのはいかがでしょうか?」
先生:「あぁ●●さんね。確かに腎機能悪かったよね。ただ、あんまり詳しくは知らないんだけど、最近フェブリクがあまり良くないんじゃないかっていう話を小耳にはさんだんだ。アロプリノールを減量するのではダメかな?」
あなた:「えぇ!?そんな話があるんですね。すいません、また少し調べてみて改めてご連絡します。」
あまりフェブキソスタットで副作用が多いなどの悪い噂を聞いたことがなかったあなた。
さっそくアロプリノールとフェブキソスタットの安全性を調べてみることにしました。
すると、ちょうど良さそうな論文を見つけることができたので、その場で読んでみることにしました。
-----------------------------------------------------------------------------------
研究デザイン:RCT(ランダム化比較試験)
論文の内容
P:心血管イベントの既往、または脳血管疾患の既往がある痛風患者(男性は50歳以上・女性は55歳以上)少なくとも尿酸値7mg/dl以上
I:フェブキソスタット群 ※
C:アロプリノール群 ※
O:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、緊急血行再建を伴う狭心症の複合アウトカム
※
フェブキソスタットは40㎎から開始し、尿酸値6mg/dl以下になるまで増量。最大80㎎
アロプリノールは300mgから開始し、尿酸値6 mg/dl以下になるまで増量。最大600㎎
腎機能30-60では200mgから開始し最大400㎎まで
【確認ポイント】
・Primary Outcomeは明確になっているか → 明確である
・真のアウトカムかどうか → 真のアウトカムといえる
・適切なランダム化がされているか → されている
・盲検化されているか → されている
・無作為化されている → されている
・解析方法は → mITT解析されている
・追跡率 → 45%弱
・追跡期間 → 32か月(中央値)
・患者背景 → 下記図を参照
・スポンサー → 武田薬品関与(海外では武田が販売)
【患者背景】
Table1 Febuxostat Allopurinol
平均年齢 :64.0歳 65.0歳
体重 :97.7㎏ 97.3歳
CKDstage1-2:47.1% 47.2%
CKDstage3 :52.9% 52.8%
【結果】
Table2
●心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、緊急冠血行再建を伴う狭心症の複合
Febuxostat Allopurinol HR
1344人(9.8%) 1563人(11.3%) 1.03(0.87-1.23)
●心血管死亡
134人(4.3%) 100人(3.2%) 1.34(1.03-1.73)
●脳梗塞
71人(2.3%) 70人(2.3%) 1.01(0.73-1.41)
●心筋梗塞
111人(3.6%) 118人(3.8%) 0.93(0.72-1.21)
●全死亡
243人(0.78%) 119人(6.4%) 1.22(1.01-1.47)
【まとめ】
Primary outcomeは非劣性であるが、心血管死と全死亡は有意に増えるという結果。
日本と比べると投与量が多かったり、かなりメタボな患者背景だったり、追跡率がかなり低いのでどのように解釈するか難しいところではあるが、少なくとも心血管リスクが高い患者に対してフェブリクを積極的に薦める理由は乏しそう。
アロプリノールのがコストも安い。
ただ、リスク増加の程度や服薬回数の違いなどからフェブリクを勧める選択肢があってもよいのかも。
いずれにしても尿酸値をしっかり下げたほうがよいかも含めて適応を考える必要があるだろう。
【疑問】コロイド性含糖酸化鉄(フェジンⓇ)は生食で希釈してもよいですか?
【背景】
コロイド性含糖酸化鉄(フェジンⓇ)は経口鉄剤が使用できない際に使用されるが、イオンによりコロイドが不安定化するため希釈はブドウ糖液でするように添付文書に記載されている。
※以下添付文書より
pH等の変化により配合変化が起こりやすいので,他の薬剤との配合に際しては注意すること。なお,本剤を希釈する必要がある場合には,通常,用時10~20%のブドウ糖注射液で5~10倍にすること。
【文献】
立命館大学等からの報告
https://drive.google.com/file/d/1Ff_QA-wbxb5kkoksaiRRn1FIpckFwtQI/view?usp=sharing
【結果】
コロイド性含糖酸化鉄を生食で希釈(50ml)しても外観、コロイド粒子径、pHは問題はなかったという結果。
添付文書では10-20%のブドウ糖液と記載があるが5%でも問題はなかった。
2.5%-10%の食塩水では分解が進んだとのこと。
【まとめ・感想】
当院でも生食での希釈は行われていたが、添付文書ではブドウ糖液が推奨されており本当によいのか疑問ではあった。
添付文書が改訂されるのかどうかはわからないが、生食でも良いデータがしっかり出たのはありがたいことだと思う。
【FDA】ケイキサレートと薬の同時服用は避けること
FDAによる2015年のrecommendになりますがin vitroで
・ワルファリン
・フェニトイン
・メトプロロール
・フロセミド
・アモキシシリン
はケイキサレートとの吸着が確認されたとのこと。
今回はこの6種類しか試験されていない?
これによりFDAからは【全ての経口投与薬剤】とケイキサレートは【3時間】間隔をあけて服用するようアラートが出ています。
胃から小腸への排出不全などがあれば6時間間隔をあけるように。とのこと。
【感想・まとめ】
当院ではアーガメイトゼリーとカリメートの採用でケイキサレートは採用されていないのですが同様の対応が必要なのでしょうか?
あくまでin vitroのデータなので、アムロジピンやワルファリン服用中の方にアーガメイトが開始されたことで血圧の上昇、INRの短縮などが見られたら対応を考えたほうが良いのかも。
【RCT】PCSK9阻害剤で心血管イベントは減りますか?【FOURIER study】
院内勉強会でレパーサの勉強会があったが、資料が軒並みLDLの低下についてしか触れていなかったので読んでみることにした。
-----------------------------------------------------------------------------------------
参考文献:Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease
PMID:28304224
----------------------------------------------------------------------------------------
研究デザイン:RCT
論文の内容
P:動脈硬化性心血管疾患を持ち、LDLが70mg/dl以上またはnonHDL100mg/dl以上でスタチンを使用している40-85歳の患者27564人
I:エボロクマブ140mgを2週ごとor420mgを月1回投与
C:プラセボ
O:心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院や冠血行再建の複合
・Primary Outcomeは明確になっているか → 明確である
・真のアウトカムかどうか → 真のアウトカムといえる
・ランダム化されているか → されている
・盲検化されているか → されている
・無作為化されている → されている
・解析方法は → ITT解析されている
・追跡率 → 99.6%
・追跡期間 → 26か月(中央値)
・患者背景 → 下記図を参照
・スポンサー → Amgenの関与あり
【患者背景】
Table1 Evolocumab Placebo
平均年齢:62.5±9.1歳 62.5±8.9歳
体重 :85.0±17.3㎏ 85.5±17.4歳
Ezetimibe:5.3% 5.2%
【結果】
Table2
●心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院や冠血行再建の複合
Evolocumab Placebo HR
1344人(9.8%) 1563人(11.3%) 0.85(0.79-0.92)
●心血管死亡
251人(1.8%) 240人(1.7%) 1.05(0.88-1.25)
●脳梗塞
207人(1.5%) 262人(1.9%) 0.79(0.66-0.95)
●血行再建
759人(5.5%) 965人(7.0%) 0.78(0.71-0.86)
確かに主要評価項目ではリスク低下が示されている。
心血管死は全く減っていない。
【感想】
確かに主要評価項目でリスクの低下は示されているが、リスク低下はそれほど大きくない印象。心血管死は減っていないし、血行再建での低下が効いている印象。
プラセボとの比較だとLDLの下がりによって投与群とプラセボ群はある程度わかってしまうかもしれないし、血行再建はバイアスがかかりやすい?
この試験ではエゼチミブ併用は5%程度(患者背景参照)なので、PCSK9投与の前にエゼチミブをしっかり併用したほうがよいのだろう。
NNTは70程度となるので、70人に高い薬を26か月投与して1人イベントが防止できると考えると・・・コスパは悪いかなぁ。
スタチン・エゼチミブ投与でもLDLの下がりが悪く、比較的若年の方には適応となるかもしれない。